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CADと3Dプリンター活用の始め方|試作工程と導入のコツ
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3Dプリンターを社内で初めて導入する際には、CADとの関係性や試作プロセスを正しく理解することが重要です。設計データの準備からスライス処理、プリント、後処理までの流れには、失敗しやすいポイントが多く存在します。
本記事では、工程ごとの注意点やCADソフト選定の観点、素材や後処理の基本、導入時の評価ポイントを整理します。
目次
目次
CADと3Dプリンターの関係とは
3Dプリンターは、機種・材料・用途によって入力形式が異なりますが、産業用および一般的なFDM/SLAなどの方式では、CADで作成された3Dモデルデータが利用されるケースが多く見られます。そのため、設計内容(角度、形状、サポート想定など)が、造形品質や後加工のしやすさに影響すると考えられています。
この章では、なぜCADが必要なのか、2Dと3Dの考え方の違い、プリントに使うデータ形式の基本について見ていきましょう。
CADデータが3Dプリントに不可欠な理由
3Dプリンターはデータを基準に動きます。継ぎ目や厚み、面の向きなど、作りやすさはCADで決まり、精度・強度・仕上がり・コストに直結します。
- 最小肉厚やオーバーハングなど、設計ルールが造形可否を左右
- 穴やゼロ厚のない閉じたソリッドが基本
- サポート面や後処理の余肉もCADで事前に設計すると効率的
- 形状変更やスライスのやり直しも、CADの作り方次第で速さが変わる
つまり、多くのトラブルは機械ではなくデータの作り方で防ぐことができるといえます。
2D設計と3D設計の違い
2D図面でも試作はできますが、速さを重視するなら初期段階から3Dで形状を固めておく方が効率的です。寸法や厚みの整合がとれ、変更にも強くなります。
| 観点 | 2D設計 | 3D設計 |
| 形状の一貫性 | ビューごとに確認が必要 | モデルで一元管理 |
| 変更対応 | 図面修正が手間 | 拘束と履歴でまとめて更新 |
| 製造配慮 | 注記や口頭に頼る | 肉厚やRなどもモデルに含められる |
| 試作スピード | 手戻りが起きやすい | すぐ出力・スライスできる |
3Dで造形に近い形を作っておくほど、手戻りも減ります。
3Dプリント用データ形式の基本
造形前には、CADモデルを目的に合ったデータ形式に変換する必要があります。
使い分けのポイント概要は以下のとおりです。
| 形式 | 主な用途 | 特徴 |
| STL | 標準的な造形 | 形状のみ。出力後のチェック必須 |
| 3MF | 色・材質情報を含む造形 | 色・材料・単位まで含められる |
| AMF | 一部の研究・産業向け | 対応ソフトが限られる |
| OBJ | 形状+テクスチャ確認 | テクスチャ表示に対応 |
どの形式でも、閉じたソリッドか、法線・穴・単位のチェックは事前に行うようにしましょう。
3Dプリンターでの試作プロセス
社内で試作をスピーディに進めるには、「設計→スライス→造形→後処理→評価」の流れをスムーズにつなぐことが重要です。
この章では、それぞれの工程を最短ルートで進めるためのポイントを整理します。
設計データの作成
試作の目的から逆算して、「作れる形」で3Dモデルを作ることが大切です。後処理や測定を見越して、基準面や余肉、最小肉厚を先に決めておくと手戻りが減ります。
- 寸法・機能・外観など、評価目的を明確にする
- 最小肉厚・R・抜き勾配・ネジ穴の基準を統一する
- サポート面や基準面は見えない側に配置する
- 出力時は許容誤差とソリッドチェックを忘れない
設計は、次の工程で迷わないための説明書です。検証手順と出力条件もテンプレ化しておくと、試作スピードを安定化できます。
機能は充実しているか
不具合を未然に防ぐ設計支援があると、周回が短くなります。
| 機能 | 意義 | チェックポイント |
| 厚み/ドラフト解析 | 造形可否の確認 | 最小肉厚の可視化・警告の有無 |
| 中空化/ラティス | 軽量化・サポート削減 | 操作の簡単さ・再編集のしやすさ |
| 干渉/逃げ確認 | 組立の事前確認 | アセンブリでの検出精度 |
| STLチェック | 出力エラー防止 | 法線・穴・非マニホールドの自動修正 |
搭載の有無だけでなく、同機能が何手で完了するかを測ると、実運用での差が見えます。
スライス処理とプリント準備
スライサーで造形条件を設定することで、安定した仕上がりが得られます。向きや層の高さ、壁の厚み、充填率、サポートのかけ方などを目的に合わせて調整し、特に初層の密着は成功率に大きく関わるため、慎重に確認しておくことが重要です。
- 強度や外観を考えた向きを最適化する
- 層高・壁数・トップ/ボトム層・充填率を設定する
- サポート密度・接点径、ブリム/ラフトの有無を確認する
- ベッドレベリング、材料乾燥、ノズル温度を確認する
スライスは品質を決める調整要素です。条件は記録して、比較・改善ができる状態にしておくと、ABテストもスムーズです。
プリント実行と後処理の流れ
3Dプリントは、造形前の準備と造形後の処理をどれだけ整えておくかで、仕上がりの安定性が大きく変わります。ビルド前のチェックと造形後の処理をルール化しておけば、必要な品質をムダなく、効率よく確保できます。
- 初層の試し打ちや途中層を目視チェックする
- 取り外し・サポート除去の手順と工具を統一する
- 洗浄・二次硬化(樹脂)や、研磨・タップ・塗装の流れを整備する
- 測定・機能確認 → 結果の記録と改善点を整理する
最後に、条件・結果・時間を1枚にまとめて「持ち帰り」を残すのがポイントです。設計やスライスに反映すれば、次回の精度アップにつながるでしょう。
工程ごとの失敗ポイントと対策
工程ごとに失敗の原因は異なり、対応も変わってきます。どこで品質が崩れたのかをきちんと見極めることで、次に生かせる学びになります。そうすることで試作のスピードも上がっていきます。
この章では、現場でよくあるつまずきと、その対策となる「次の一手」を併せて探っていきましょう。
設計段階でありがちなミス
材料の推奨よりも薄い肉厚にしてしまい、層間で割れるケースがよくあります。また、ゼロ厚や穴が残ったままSTLを書き出すと、スライサーでエラーになりやすくなるでしょう。角が立った形状は応力が集中しやすく、サポートが当たる面が見える位置にあると、見た目にも影響します。
対策としては、厚みチェックやマニホールド確認を習慣化し、最小Rの基準を持つことです。さらに、サポート痕が目立たないような向きを想定しながらモデリングを進めると、仕上がりの品質が安定します。
スライス時に起こりやすいトラブル
向きをなんとなく決めてしまうと、積層方向と力のかかる向きが合わず、割れやすくなります。
まず評価の目的に合わせて向きを決め、層高や壁数、充填率などをまとめて調整しましょう。さらに、初層の定着を安定させるために、ベッドの水平や材料の乾燥は毎回確認しておくことが大切です。
プリント中の失敗
初層がうまく定着しないと、途中で反りが出てきて再現性が落ちます。ノズル詰まりや押し出し不足があると、層と層の結合が弱くなり、強度が足りなくなります。
造形を始めたらすぐに定着と押し出しの状態をチェックし、必要に応じて温度や流量を微調整しましょう。
後処理・組み立てでの注意点
サポートを急いで削ると、寸法を削りすぎてしまうことがあります。粗いヤスリから細かいものへ順に研磨し、面が変わるたびに寸法チェックを入れましょう。タップ加工は、下穴の径と締め付けトルクの管理がポイントです。
嵌合は、プリント時のクセを考慮した公差設計が必要です。外観面では、サポートの当たった側が見えないように配置し、しっかり締結したい部分にはヒートインサートやブッシュを使うのが定番です。
CADソフト選定のポイント
初導入で大切なのは、「試作を素早く回し、学びを残せるか」です。製品の良し悪しよりも、社内に合った評価軸を先に決めておくことで、迷いや手戻りが減らせます。
この章では、判断基準を整理していきましょう。
直感的に操作できるか
現場で迷わず形状を起こせることが試作速度に直結します。
| 評価観点 | 着眼点 | チェック方法 |
| 学習曲線 | 基本操作の習得時間 | チュートリアルで初日ゴールまで試す |
| 編集性 | 履歴や拘束の分かりやすさ | モデル修正の工数・失敗の少なさ |
| 出力導線 | STL/3MFまでの流れ | 手順の少なさと確認機能の位置 |
| 表示・操作感 | ラグや安定性 | 中~大規模モデルで操作感を確認 |
体験版やトライアルで同じ課題モデルで操作回数と完了時間を記録すると、定量比較ができるでしょう。
価格に合っているか
初期費用だけでなく、教育や運用、アドオン、アップデートなどを含めた総保有コストで比較することが大切です。まずは最小構成で目標を達成できるかを試し、段階的に拡張するのが無理のない進め方です。
| 項目 | 内容 | 評価のコツ |
| ライセンス | 月額/年額/同時接続 | 利用人数とピーク時で試算 |
| 教育/教材 | 公式講座・社内工数など | 初日ゴールまでの時間で換算 |
| アドオン | CAM・解析・ラティスなど | 必要時に費用追加で柔軟に |
| 保守/更新 | サポート・バージョン対応 | データ互換・停止リスクを確認 |
まず小さく始め、評価をクリアしたら段階的にプランを広げていきましょう。
社内共有・他部門と連携できるか
将来的なボトルネックは、ツールそのものよりもデータの流れに現れます。入出力形式、図面出力、PDM/PLMの連携、アクセス権の管理、社外・他部門との受け渡しルールなどは、導入時にまとめて整備しておくと運用が安定します。
| 観点 | 着眼点 | チェック方法 |
| 形式互換 | STL/3MF/STEPなど | 実ファイルでの送受信テスト |
| 管理基盤 | PDM/PLM連携 | 承認フローを実装できるか |
| 権限/共有 | アクセス制御・履歴 | ロール分離・監査ログの有無 |
| 社外連携 | 命名・版固定ルール | テンプレ化と文書整備があるか |
こうした連携の仕組みは、人と組織のルール作りでもあります。命名規則やバージョン管理、受け渡しの手順をテンプレート化し、評価を通過したら正式運用に切り替えることで、導入効果を長く維持できるでしょう。
3Dプリントに用いる素材と後処理
素材と後処理は、試作の速度と評価精度を左右します。細かな材料学よりも「何を確かめるか」に沿って最短で回せる選択を押さえましょう。
基本は樹脂で形状・嵌合を素早く検証し、必要に応じて金属・セラミックで最終仕様に近づけることです。
樹脂系の特徴
樹脂は初期の試作に向いており、短納期で周回できます。方式ごとの仕上がり特性と後処理の負荷を理解しておくと、手戻りを減らせます。
| 方式 | 主な用途 | 強み | 注意点・後処理 |
| FDM | 外装・治具 | 低コスト・造形が速い | 反りや層間強度に注意。研磨やタップ処理が必要 |
| SLA/DLP | 外観・精密形状 | 高精細・滑らかな表面 | 洗浄・二次硬化が必要。もろさや吸水性に注意 |
| SLS | 複雑な一体構造 | サポート不要 | 表面がざらつくため仕上げ処理が必要 |
| エラストマー | 柔軟部品 | 弾性がある | 寸法安定性と支持除去に注意 |
まずは、層高・壁数・トップ/ボトム層・向きの標準を固定し、研磨・塗装・タップの手順と時間をテンプレ化しましょう。
金属・セラミックの特徴
強度・耐熱・耐摩耗など、実使用に近い条件での検証に適しています。造形後の熱処理や加工を見越して、あらかじめ余肉や支持構造を設計に織り込むことがポイントです。
| プロセス | 主な用途 | 強み | 設計・後処理の要点 |
| SLM/DMLS | 実機試験 | 高強度・耐熱性 | 支持構造の設計、熱処理+機械加工が前提 |
| バインダJet | 小ロット量産 | 高スループット | 脱脂・焼結時の収縮管理が必要 |
| ワイヤーDED | 補修・肉盛り | 厚肉形成に対応 | 粗さと熱影響、余肉設計が重要 |
| セラミック | 高温環境・絶縁部品 | 耐熱・耐摩耗性 | 焼結による寸法変化や割れに注意 |
金属・セラミック系では、「支持除去→熱処理→機械加工→検査」までを工程として定義し、どこまでを社内で対応し、どこからを外注にするかを導入前に決めておくと、コストや納期のブレが減ります。
社内導入時のポイント
導入を成功させるカギは、「速度・品質・人・連携」の4つを明確にし、運用ルールを整えることです。最初に基準と手順を簡潔に固めておくことで、機種や材料が変わっても再現性のある運用が可能になります。
試作スピードとコストのバランス
まずは、試作1周にかかる時間とコストの見える化から始めましょう。
- 設計→スライス→造形→後処理→評価までの所要時間に上限を設定
- 1ビルドあたりの材料費・稼働費を簡易に計算
- 初層確認や材料乾燥など、歩留まりに関わる工程は短縮しない
- 内製/外注の判断基準(コスト・納期)を文書で明確化
この枠組みがあれば、設定変更の効果を「時間と費用」で比較でき、改善が進みます。
精度・強度・仕上がりの評価方法
評価は「どう測るか」を統一することが重要です。
| 項目 | 実施内容 |
| 寸法 | X/Y/Z方向の誤差を測定し、補正表を作成 |
| 強度 | 向き・壁数・充填率を変えてABテスト、簡易治具で載荷試験 |
| 外観 | 光源と距離を固定し、段差・サポート痕の等級を定義して判定 |
| 記録 | 条件と結果を同一シートで記録し、再利用と更新に活用 |
3周ほど試作を重ねて、「この用途にはこの条件」という基準を固めると、判断がスムーズになるでしょう。
教育・習熟にかかる時間
導入初期は短期集中で型を作るのが効果的です。
- 初日に「設計→出力→スライス→造形→後処理→評価」まで体験
- 同一モデルで向き・層高・壁数の条件出しを実演
- その場で既定値・チェックリスト・評価様式を整備
- 週1回、15分のミーティングで失敗共有と設定のアップデート
個人技に頼らず、誰でも再現できるテンプレート化が成功のポイントです。
部門内外での活用範囲の広がり
まずは小さく始め、効果を確認しながら用途を段階的に広げていきます。
- 初期用途は治具・干渉チェック・外装モックに限定
- 評価が安定したら、組立検証・営業用試作・展示物へ展開
- データの受け渡しルール(形式・版・命名)と共有範囲を明文化
- 成果物やリードタイム短縮の実績はダッシュボードで可視化
成功パターンを見える化して関係部門に展開すれば、投資対効果の説明もしやすくなります。
まとめ
初めて3Dプリンターを導入する際に課題となりやすいのが、評価基準の曖昧さです。寸法・強度・外観など、どの項目をどの方法で測定し、どこを合否ラインとするのかを事前に決めておくことで、判断が揃い、試作の検証プロセスを積み上げやすくなります。
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