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3Dプリンター用データの作成方法と作成後に必要な作業・注意点を詳しく解説
この記事では、3Dプリンター用データの作成方法、作成後に必要な作業、および作成する際の注意点をわかりやすく解説します。
近年3Dプリンターの小型化が進み、また業務用部品の量産を可能とするものまで登場し、3Dプリンター市場は拡大を続けています。しかし、まだ一般には身近なものとはいえず、3Dプリンター用のデータはどうやって用意するのか疑問をお持ちの方も多いでしょう。
ぜひ当記事で基礎的な理解を深めてください。
目次
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3Dプリンター用データの作成方法5つ
これまでのプリンターは、文字・イラスト・図表・写真などのデータを紙(平面:2D)に出力するものであり、2Dプリンターとも呼ばれます。
これに対し3Dプリンターは、空間に立体物(3D)を造形するため、出力する元となる「3Dデータ」を必要とします。
この3Dデータはいわば設計図であり、主な作成方法は、大きく5つに分類できます。次の項目から5つの作成方法をそれぞれ詳しく解説します。
3DCADソフトを利用したモデリング
3DCADとは、平面(2D)のCADデータに高さの情報を持たせ、立体的な3Dデータを作成することです。3DCADソフトはそのためのツールをいいます。代表的なソフトは、「CATIA」、「SolidWorks」、「Fusion360」等があります。
作成したデータは立体を表現できるため、出力する前に物の形を視覚的に捉えることが可能です。
この「CAD」はComputer Aided Design(コンピューター支援設計)の略で、コンピューターを使用して設計図などの図面を描くことをいいます。
3DCADでの図形の3つの描き方
3DCADでは図形の描き方として、3つの方法があります。
ワイヤーフレーム
まずはじめに「ワイヤーフレーム」と呼ばれる表現方法です。面はなく、点と線と曲線のみを使用して造形物の骨格を表現します。
骨格を構成する各図形をコンピューター上に個別に描写・配置する必要があるため、この方法は最も時間を要します。立体図面作成の過程で用いられるのが一般的で、データサイズが小さく表示が早いという特徴があります。
サーフェス
次に「サーフェス」と呼ばれる表現方法です。「ワイヤーフレーム」に面の情報が加わります。描く図面は体積を持たないため、閉じた形状である必要はありません。
「ワイヤーフレーム」よりも保有する情報量が多くなるため、それに伴いデータサイズも大きくなります。
ソリッド
最後に「ソリッド」と呼ばれる表現方法です。描写する立体は体積を持つため、必ず閉じた形状になります。3DCADソフトで密度を設定することで、出力される造形物の質量を計算できます。
「サーフェス」よりもさらに情報量を持つため、ご紹介した3つの描画方法の中で一番データサイズが大きくなります。
3DCADを利用した場合のメリットとデメリット
3DCADでは、造形するものの形・構造・寸法を設定することで、緻密なデータを作成可能です。またデータが立体で視覚的にわかりやすいため、普段設計図面に慣れていない人でも造形物を容易にイメージできます。
さらに設計者自身が3Dモデリングの過程で問題点を発見しやすくなり、作業を効率的に進めることにもつながります。ただしデメリットとして、3DCADに関する専門知識が必要であり、またソフトの操作方法を覚えなければなりません。
そして、3DCADソフトを使用するパソコンでは、高度なグラフィック処理が求められるため、高性能なパソコンを用意する必要があります。
3DCGツールを利用したデータ作成
「CG」とはComputer Graphicsの略で、コンピューターを使用して作成した図形・画像をいい、「3DCG」はその中でも立体のものをいいます。
3DCGツールを利用すれば、3Dプリンター用の3Dデータを作成することができます。3DCGツールには、2種類の表現方法があります。
ひとつは「ポリゴンベース」と呼ばれ、三角形や四角形を大量に並べていくことで曲面を表現します。もうひとつは「スプラインベース」と呼ばれ、曲線を用いることで「ポリゴンベース」よりもさらになめらかなデータを作成可能です。
3DCGツールは曲線を滑らかに表現することが得意であるため、ゲーム・アニメのキャラクターやフィギュアなど、造形物の曲面を美しく表現したい場合に多く採用されています。
3DCGツールを利用した場合のメリットとデメリット
3DCGツールは、特に詳細な数値設定をする必要がなく、図形の組み合わせによりデータを作成していくため、初心者の方にも操作がしやすいというメリットがあります。
逆に数値による精密な調整をしないため、建築物・自動車や家電の部品など、正確な寸法が必要となる造形物のデータ作成には向いているとはいえません。
3DCGソフトとして代表的なものとして「Blender」が挙げられます。オープンソースのソフトウェアのため、誰でも無料で利用できます。キャラクターの3Dモデリングはもちろん、アニメのような画像や動画を作るレンダリング機能、動画編集機能も備えています。オランダで開発されたソフトですが、日本語にも対応済みです。
スキャナ機能で実物をスキャンすることによりデータ作成
3Dプリンターにより造形したいものが既に存在している場合には、実物を3Dスキャナーでスキャンし、スキャンデータをもとに簡単に3Dプリンター用データの作成ができます。
過去に手作業で作ったためデータがないものや販売終了製品を造形したいケースでは、大変有効といえますが、スキャンだけでは実物の正確な再現は難しく、3Dデータの修正も少なからず発生します。
3Dスキャナーは、レーザーの照射などにより対象物の「高さ」「横幅」「奥行き」に関するデータを取得し、3Dデータを作成する機器です。
近年10万円前後で購入できるものも販売されていますが、業務用レベルの性能の高さを求めると100万円を超える製品も多くあります。もし数回スキャンすれば足りるという場合には、購入ではなくスキャン代行を利用することも検討できるでしょう。
またスキャナー機能を搭載した3Dプリンターであれば、3Dスキャナーを使用した場合と同様に、実物をスキャンすることで、3Dデータを作成することが可能です。
スキャナー機能を搭載した3Dプリンターとしては、台湾製の「ダヴィンチ 1.0 Pro 3in1」、同じく台湾製の「FLUX」などがありますが、3Dスキャナーが非常に多くのメーカーから販売されているのと比べると、選択肢が十分にあるとはいえません。
スキャンによりデータを作成する場合のメリットとデメリット
実物をスキャンすることによりデータを作成する場合には、手間を掛けずに3Dプリンター用のデータを用意することができます。
ただし、実物が存在している場合にのみ有効な方法であるため、利用機会は限定されること、アイデアがあっても自分でデータを作ることができないというデメリットがあります。
また使用する3Dスキャナーのスペックによっては、作成される3Dデータの精度が変わってしまう点にも注意が必要です。
配布サイトからデータをダウンロード
3DCADソフト、3DCGツールを使用して自分でデータを作るのが難しければ、3Dデータの配布サイトにて無料でダウンロードすることも可能です。
すでに完成しているデータをもとに、新製品開発のアイデア出しに利用、3Dデータ作成の練習、3Dプリンターのテスト用とさまざまな活用方法が考えられます。ただし、著作権はデータ作成者にあるため、商用利用の可否については事前に確認し、権利を侵害することがないように十分注意しましょう。
データ作成代行サービスを利用
オリジナルのイラストや図面などを用意できても、3Dデータが作れないという場合には、データ作成の代行サービスを利用するのも有効です。
自分で長時間掛けてデータ作成に取り組むよりも、プロに依頼した方がコストメリットが得られるケースも考えられるでしょう。データ作成に加えて、3Dプリンターでの出力・造形まで行ってくれるサービスもあります。
利用場面としては、例えばオリジナルアクセサリーのイラストを造形したり、ペットの写真からフィギュアを製作することも可能です。
3Dプリンター用データ作成後に必要な作業3つ
3Dプリンター用のデータが準備できたら、続いては3Dプリンターに出力するために必要なデータ変換を行っていきます。また、造形する際に間違いがないようにチェック作業を行います。以下、3つの作業を順にご紹介していきます。
(1)STL形式またはOBJ形式のデータに変換
写真やイラストなどの2D画像で「jpeg」や「png」のようにファイル形式に違いがあるように、3Dデータにも複数のファイル形式があります。また、ファイル形式により保持する情報や取り扱いができるソフトウェアに違いがあります。
現在、3Dプリンターで読み込めるファイル形式は、「STL形式(.stl)」もしくは「OBJ形式(.obj)」が一般的です。
3DCADソフトの大部分が、データの作成・出力をSTL形式で行うため、この場合には特にデータ変換の必要はありません。作成するデータがSTL形式やOBJ形式とならない3DCADソフトをお使いの場合には、別途専用のソフトウェアにて、ファイル形式を変換することになります。
STL形式(.stl)
STL形式は、「3D Systems」が開発したファイル形式です。ほぼすべての3Dプリンターに対応している最も標準的なファイル形式といえます。データを編集することは難しいですが、大部分のCADソフトウェアで読み込み・書き出しが可能です。小さな三角形(ポリゴン)の集合体として3次元の形状を表現します。
OBJ形式(.obj)
OBJ形式は、Wavefront社が開発したファイル形式です。同一ファイル内にMTL形式のファイルも保持しているため、色やテクスチャーの情報も持つことが可能ですが、アニメーションの情報は持てません。3Dモデリングソフト、レンダリングソフトの多くが対応しています。
(2)STL形式のデータのエラーチェック
3Dプリンターで造形するデータがSTL形式で準備できたところで、データのエラーチェックを行います。
データの破損などエラーを確認するために、STL閲覧ソフトを使用します。無償で配布されているソフトでもエラーチェック・エラー修正が可能ですが、3DCADソフト自体に同機能を搭載しているものもあります。
STL形式データに破損などエラーがある場合には、修正し完全なデータとしたうえで、3Dプリンターへ出力を行います。
STL形式データに変換したときに発生する代表的なエラーとしては、以下の3つが挙げられます。
変換精度が粗い
ひとつ目は「変換精度が粗い」場合です。3DCADで作成したデータをSTL形式データとして変換・出力する際、ほぼすべてのソフトで変換精度の設定が可能です。
この時、精度設定が低すぎると、滑らかなはずの曲面が角を持った面に変換されてしまうなど、最終的な目標物とかけ離れてしまう不具合が起こりえます。
設定項目ごとに精度を優先した選択を行い、STL閲覧ソフトにて変換後データが意図したとおりに出力されているか確認しましょう。
なお精度を高くすればするほど、STLファイルのサイズも大きくなります。この後の作業工程で不具合が生じた場合には、ファイルサイズを小さくするために、精度設定を少しずつ下げてください。
体積を持たないサーフェス
次のエラーは、「体積を持たないサーフェス」です。3Dプリンターで造形するデータは必ず体積を持ち、閉じた形状とする必要があります。
そのためサーフェスで面だけモデリングしたケースでは、必ずソリッドに変換後、STL形式で出力します。
表面に穴が開いている
最後によくあるエラーが「表面に穴が開いている」ケースです。モデリングした立体図面の表面に穴が開いていると、そのままでは3Dプリンターに出力できません。表面の穴が閉じて、内部が見えない状態となるようにデータを修正しましょう。
(3)造形ツールパスデータへの変換
すべてのエラーを修正し、完全なSTL形式データとなったところで、次は造形ツールパスデータに変換します。
造形ツールパスデータは、3Dプリンターを動作させるための専用データです。「スライスソフト」と呼ばれるソフトを用いて、STL形式データから変換します。
3Dプリンターにより、造形ツールパスデータが異なるため、通常専用のスライスソフトが用意されていますが、付属していない場合には、別途3Dプリンターに適合するものを揃える必要があります。
ヘッドの温度
3Dプリンターで造形物の元になる材料は、「フィラメント材料」と呼ばれ、熱を加えると柔らかくなり、熱が冷めると固まる性質を持っています(熱可塑性樹脂)。
フィラメント材料が3Dプリンターのノズルを通過する際に、スライスソフトで設定したヘッドの温度で加熱される仕組みです。3Dプリンターによっては、ヘッドに加えテーブルの温度設定が可能なものもあります。
通常、使用するフィラメント材料の説明書に推奨温度の記載がありますので、指示に従って設定すれば特に問題ありません。
解像度(積層ピッチ)
造形物の解像度(積層ピッチ)は、プリント1層の厚さを調整する設定です。厚さを薄くすればするほど曲面を滑らかにできますが、それにより必要となる層が増えるため、造形にも時間を要することになります。
充填率(密度)
3Dプリンターの造形物は、必ず体積を持ち、閉じられた形状をしています。
充填率は造形物内の密度を設定し、これにより強度を決定します。充填率を下げれば、フィラメント材料の消費を抑えられますが、その分強度が弱くなります。
造形物に求められる強度によって、充填率を調整しましょう。
サポート材やラフトの設定
サポート材は、造形物そのものを形作るものではなく、造形物が浮いた形状を持っている場合や中が空洞の場合に、造形を助する役割を果たす材料です。
ラフトは、フィラメント材料が冷えるときに収縮することで、造形物がテーブルからはがれてしまうのを防ぐためのものです。
サポート材もラフトも最終的には造形物から取り外されますが、形状によりサポート材・ラフトがないと造形できない場合もあります。使用・未使用の選択、使用する際の位置をスライスソフトで設定できます。
3Dプリンター用データを作成する際の注意点3つ
3Dプリンター用データの作成方法を見てきましたが、データ作成時に注意する点が3つありますので解説します。
(1)厚さは強度を考慮
3Dプリンターで造形する際には、元となる3Dデータはサーフェスによる面の描写ではなく、ソリッドにより体積を持つ必要があり、厚みが重要になってきます。
もともと3Dプリンターが持つ最低の積層ピッチを下回る薄さのものは造形できません。
しかし、あまりに薄さにこだわると造形物の強度が確保できず、造形中・サポート材取り外し中などに破損してしまう恐れがあります。
利用する3Dプリンターやフィラメント材料により強度が変わってくることから、厚みによる破損が心配な場合には試作を繰り返すことで、造形物の強度を実際に確かめる必要があるでしょう。
予想していたよりも薄くて大丈夫というケースも実際にはあります。造形中の破損対策として、サポート材・ラフトの使用や設置位置の見直しも有効です。
(2)造形時は積層方向を考慮
3Dプリンターは1層1層、平面(2D)を積層していくことで、造形物の形状(3D)を作り上げます。
3Dデータ上は同じ形の造形物でも、作る向きにより強度と表面の仕上がり具合が変わってくる特徴を持っています。具体的には、上に上に積層していくため、層が確認できる方向(真横)から働く力には弱くなります。したがって、3Dデータを作成するときには、ものの形状や目的によって、立てたり寝かせたり傾けたり積層方向を考えた造形が必要になるでしょう。
(3)形状は可能な限りシンプルさを追求
3Dプリンター用のデータは、コンピューター上で視覚的にわかりやすく作成できるため、複雑な造形物の設計も比較的容易に行えます。
ただし、実際に造形するプロセスにおいて、造形物が浮いた形状を持っている場合や中が空洞の場合には、造形を補助するサポート材が必要になります。
サポート材は最終的には完成品から切り離されますが、取り外しの段階で破損の原因になるリスクがあり、またサポート材を多く使用することで仕上がりを悪くしてしまう恐れもあります。
したがって3Dデータの設計の段階では、可能な限りサポート材を使用しないシンプルな形状を意識し、どうしても必要な場合には、当初想定していた造形物をいくつかのパーツに分けて造形することも検討しましょう。
なお3Dプリンターの中には、ノズルが1つしかないタイプも多く、同じフィラメント材料が造形物・サポート材の両方に使用されることで、造形後にサポート材を取り外すのが難しいという課題がありました。
しかし最近、取り外すことを重視した水に溶かすタイプの水溶性のサポート材用フィラメント材料も登場しましたので、もしサポート材を使用する場面では積極的に活用したいものになります。
3Dプリンター用データの作成方法、作成後の作業、注意点まとめ
以上、3D プリンター用データの作成方法、作成後に必要な作業、および作成する際の注意点について解説しました。
3Dデータを自分で用意したい場合には、3DCADソフトや3DCGツールを活用し、3Dスキャンを使用すればスキャンデータをもとに3Dデータが作成できます。
また自分で作成するのが難しい場合には、配布サイトから3Dデータを無料でダウンロードする方法、データ作成代行サービスを利用する方法もあります。
3Dプリンターは、造形スピードのアップ・造形物の強度アップなど性能を日々進化させながら、今後ますます我々にとって身近なものとなっていくでしょう。ぜひ当記事を参考に3Dプリンターに関する理解を深めてください。